オトカに()かされた話

 むかしのお話です。
 小久喜の村はずれに「()ずれ」という(ひる)でもうす(ぐらい)雑木林(ぞうきばやし)がありました。ある(よる)のこと、里帰(さとがえ)りしていました(よめ)が家へ(かえ)途中(とちゅう)、馬ずれあたりを(とお)りかかったときです。
 おばあさんがしきりに林の中の(ほり)で魚をとっていました。嫁は「いまどき、(だれ)だんべ」と、(ちか)づいてみますと「あれー、おっかさん」なんと(とつ)ぎ先のお(しゅうと)さんだったのです。「おっかさん、おらも手伝(てつだ)うべえ」といって、いっしょになって魚をとりました。やがてカゴにいっぱいになりましたので「もう帰るべ」と、ふりかえりましたところ、お姑さんはいつのまにかいませんでした。しかたなく魚のカゴと里のお土産(おみやげ)をかかえこんで家に帰りました。
 先ほどの話をしますと、お姑さん「おら、今晩(こんばん)一歩(いっぽ)も外へでねえぞ」といいました。
 嫁は「そんなはずはねえ」と、魚を入れたカゴを見ますと、なんと全部木の()でした。まさかと、お土産を入れたふろしきの中は(から)っぽでした。
 これは馬ずれにすむオトカ(きつね)が、お土産の食べものをかっぱらうときの化かしの手だそうです。

(「白岡の民話」より)

豆知識(まめちしき)
 JR宇都宮線で大宮方面へ向かって2番目の
踏切(ふみきり)付近を、土地の人は「ばずれ」と()んでいたそうです。
 近くには
馬場(ばんば)と呼ばれる地域があり、その東のはずれなので「ばずれ」と呼ばれたようです。